明治・大正・昭和を生きた日本人絵付師の生涯

美術、陶器、戦争、NY渡米、渡欧。明治・大正・昭和を生きた夫の曽祖父の自叙伝。大変興味深い内容でしたのでブログにしました。

第十章 ニューヨーク市所見(4)

   地方都市見聞

 ワシントン市 ニューヨークから十数時間で行ける。首府であり政治都市である。ホワイトハウス、国会議事堂、総大理石の華麗な図書館、公園内に高く聳びえる五百五十五呎(約四十八米)のエジプトから移築したワシントンモニュメント等他に役所の建物が多い。又リンカーン大統領が狙撃されたフォード劇場並びにその向側にはリンカーン記念館(リンカーンが息を引きとった家)があり遺品、記念品が陳列されている。

又郊外マウントバーヌンにはジョージ・ワシントンの生家がその儘保存されている。

フィラデルフィアはニューヨークに次ぐ商工業の中心地で、ギンベルブラザースやジョンワナメーカー等という百貨店の本店がある。

又此処は毎年イースター(復活祭)の時期になると地方から集まる人々でホテルや間貸しは満員となり、その盛況は驚く許りである。それは此処が海岸で丁度その頃は気候が良いのでニューヨーク辺りから、この休暇を利用して人々が衣装較らべに集る様な感がある。海岸には幅三、四間(六、七米)の板張りのサイドボード(通路)が砂浜から六尺(一・五米)位の高さで一直線に一哩余(約一・五粁)出来ている。

そこを女性が着飾って男性と腕をくみ、行く人、帰る人、中には黒人が車椅子を押して何台も、何台も続いている。是等には老人が乗っていて往復しているのだ。

着飾った人々は、これ見よがしに思い思い好みにまかせて、その美しさを競っている。

それでアメリカの衣装界では、この日の傾向が流行の元になるとさえ言われている。

サイドボードの下には所々にレストランやソーダ水の売店がある。一方では海岸に馬を走らせる者もいる。実にイースター祭の賑ぎわいは想像出来ない程人出が多い。又此処には自由を叫んだアメリカのシンボルとも言うべき「自由の鐘」がある。即ち南北戦争当時この鐘を壊れる迄鳴らしたという事だ。今はインディペンデンスホールに保存されている。

 ボストン 此処は経済都市であると共に学芸の中心地でもある。

ボストン大学を始め大小の専門学校があり研究に集まる学生の都市とも言える。

博物館は日本の古美術品が多数集められている事で有名である。

明治初年フェノローサという人により日本の国宝的美術品が相当数集められたもので、その後岡倉覚三氏が永年滞在して之等を整理し陳列から解説まで一切を純日本風にすると共に部屋の構造は言う迄もなく装飾も日本式に作った。それで他の館内様式陳列品の中で異彩を放っている。同舘にある書画骨董、武具等は日本では見られない貴重品が多い。

 私はニューヨーク滞在中二、三度は以上の都市を訪れて仕事の材料の収集に努めていた。アメリカへ来て是非一度は見て置かなければ、ならない所はナイヤガラの大瀑布とアリゾナ州のナショナルパーク、グランドキャニオン等の大自然美であろう。

何れも其の雄大な壮観は世界屈指と言っても過言ではない。

ミシシッピー河を渡ってテキサス、二ユーメキシコ州を横断して、シェラネバダの峻険を通る鉄道は突忽と現われる山岳や茫漠たる原野を窓外に眺められる。又この辺はアメリカインディアン部落が多いので、駅で停車すると漆黒の髪を束ね鳥の羽で身を飾った婦人が種々の工芸品を売りに来る。又男性は赤銅色の皮膚で更に綺麗な羽の冠り物に色とりどりの首飾りや民族衣装を着ている姿を見る事ができる。

又カウボーイはこの辺一帯の牧場で見られる。幾日かを同じ列車で過ごす旅行者には映画以外では見られない之等の風俗を窓外に見られる事は旅情を慰める絶好の物である。

 シカゴからサザン・パシフィック・ラインでロサンゼルスへ廻る鉄道の周辺にはアメリカを代表する名物、名所が多い。

 

 

 

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