明治・大正・昭和を生きた日本人絵付師の生涯

美術、陶器、戦争、NY渡米、渡欧。明治・大正・昭和を生きた夫の曽祖父の自叙伝。大変興味深い内容でしたのでブログにしました。

第十一章 ヨーロッパ行(イギリスからオランダ迄)(6)

旅券にベルギーの査証を受け十二月七日パリーを発ちブリュッセルに着いたのは午後であった。パレスホテルに一泊した私は有名な日本ガーデンを見る。五重の塔が池に影を写しているのを見て懐かしく感じた。有名な小便小僧は横町の目立たぬ所にある。平日は裸で子供が小便をしている様に水が出ているが一年に一回の記念日には正装した立派な皇太子の服装となる。

往時同国の皇太子がこの辺りを通る時、此処で用をたした事を後日記念としてその儘の姿を銅像として此処に立てられたとの事である。

此処は一日滞在した丈で翌日オランダへ入りアムステルダムホテルで旅装を解いた。

風車の国、チューリップの国、然しこの国の四分の一は海面下の低地で、この為常に排水に努力しているのである。市外には縦横に運河が通っており船の交通も発達している。

セントラル・ステーションは街の規模に比較すれば仲々立派である。東京駅のモデルになった駅である。東京駅より広い感じがした。街の建物は三、四階で美しいと言う程でもない。然し市庁舎とか郵便局、寺院等は一際目立って美しい。

然し街としては只何となく田舎じみて全体が明るい感じがしない。

けれども花の咲く時期は郊外に出ると観賞用植物の栽培が盛んでチューリップ、ヒヤシンス等色とりどりの畑が絨毯の模様を見る様で美しいと、言う事だ。

その間々に風車が異様な音をたてゝ回っている。民族衣装は独特なもので木靴を履いていて素朴だ。

然しこの国の宝石細工は有名で特にダイヤの加工は世界一とも言われている。

私は此処で珊瑚の首飾りを買ったが帰国後その価値の大である事を知った。

さて二日づつではあったがベルギー、オランダの旅も終わり明日は愈々ドイツへ入るので、それを楽しみに其の夜は遠く風車のきしむ音を聞き乍ら寝についた。

 


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