明治・大正・昭和を生きた日本人絵付師の生涯

美術、陶器、戦争、NY渡米、渡欧。明治・大正・昭和を生きた夫の曽祖父の自叙伝。大変興味深い内容でしたのでブログにしました。

第十七章 趣味(下)- 1

   蒐集趣味

 蒐集趣味は始めは月並的に郵便切手やマッチのレッテルに始まり段々と集まった物の中で自分の趣味に一番合った物が残って、これを熱心に集める様になるものと人が集めている物では面白くない何でも人が集めていない物を選んで集め度いという好奇心による物とがある。私も始めは一番手に入り易い郵便切手やマッチのレッテルを集めていた。所が之は大抵の人が集める物で割に簡単で金を出せば幾らでも集める事ができる。

それならば金持ちには、とても叶わないし趣味として多くの金を出して買ったりしたのでは面白味も無いので何か他の人が集めて居ない物を集めてみようと考えている内に社用で旅行許りしていた私はその内に乗車券や急行券等が手に残る事があり、それが二枚になり三枚となり半年も経ってみると相当の数になり電車の切符等は夫れぞれ種々の模様も入って地方々々の特色を現わしているし又時々は記念乗車券等の発行もあり仲々面白味もあり研究してみると鉄道の切符でも常に変化がある。

駅名を平仮名で記したものが漢字となり、それが左書きとなったり太字となり細字となったり何時も一定でない所に面白味を感じボツボツ集める気になって来た。そして未だ世間の人が余り多く此の方面に興味を持っていない様であった。

そこでアメリカへ行く人に外国の物を依頼して集めて貰い等して一、二年の間に二百、三百と集まって来たので、いよいよ本格的に集める事となった。

 さて専門に集めかけると困難な事情が沢山あって容易では無い。第一乗車券は有価証券に等しいもので又乗客の手に残る物ではない。それを手に入れるのであるから非常手段とも言うべきか時には不正という事も伴ってくる。然しその気になれば不思議な物で他人が驚く様な事をして集めてくる。そして自分が欲しいと思う物は必ず集めて終う。無賃乗車證等は特に入手困難である。けれども十中八、九迄は必ず集める事ができる。其れにはそれ相当の苦心も努力も必要である。

又常に心掛けて居なければならない事は全国の会社の創立、各軌道の新設又は延長、期限付き特殊乗車券、或は記念に発行される物等々、No.1 の乗車券を入手しようとすれば、この頃では殆ど死に物狂いの状態で少し馬鹿々々しい感じもする。

 大阪に山本不二男君という大蒐集家が居る事を知ったのは大正三、四年頃であった。

又横浜に中山沖右衛門という同好の士を得たのも、その頃であった。

兎に角大阪に山本、横浜に中山、中京に私と言われる迄になったのも御互いに授け合って蒐蒐に努力したからである。三人共に今では元老格を自認している。又所持の種類、数量も御互いに十万以上で一々カード式に整理分類して保存している。

 

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